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言の葉紡ぎのパラブログ

言葉で世界にかけ橋を。

朝日を出迎えた寝惚け眼の街で、ほんの少しだけ特別になれる魔法がかかる

迂遠な書きもの #5

朝日を出迎えた朝は、少しだけ特別になる。そんな気がする。

同じ朝でありながら、どこか違う気分にさせられるのは――たぶん、日々訪れている歴史的瞬間の観察者になれるからだろう。

際限なく繰り返されていく朝に、特別な何かを見ようと意識を向ける。それだけのことが、まるで別世界への入口に立てたかのような、小気味良い錯覚をもたらしてくれる。

夜明けの温度、早朝の魔法

永遠に続くかのような宇宙の闇を湛えた夜空が、緩やかに白み始めている。

黎明の訪れとともに瞬く星々はその姿を隠し、空は静かに青を取り戻していく。世界のすべてが無彩色から有彩色への移ろいを演じる中、街はまだ少し寝惚けているようだ。

陽光が灼く茜色の雲に心奪われること、しばし。

その朝焼けが彩度を手放す頃、水平に差す朝日を受けて輝くビルの足元では、職場や学校へと向かう人々の群れが足早に過ぎていく。

日の出とともに昨日が過ぎ去り、生まれたての今日の産声を五感で受け止めながら、実感と思考に生じた微妙なすれ違いに違和感を覚える。

夜明けというありふれた歴史的瞬間にあって、その一部始終を見届けた「ただの人」――すなわち、億人の一人に埋没した何者でもない自分を俯瞰する。

何者でもあって、何者でもなく、何者にもなれて、何者にもなれていない。

そんな自分を、ただの自分を、どうして他人事のように見つめていたのだろうか。

それなりに何かしらに取り組んでいるつもりでも、これといった手応えを掴めていない事実を誤魔化している。そんな自分を、別の自分が横目で見やる。

無為に過ぎ去らせてしまっている、漫然と過ぎ去ってしまう、そんな焦燥。

もう遅いだろうか、まだ間に合うだろうかと、そんな内なる問答を繰り返しながら、手応えを求めて模索を続けている。

朝露に濡れる街に白い吐息が消えていくように、瞬く間に人生が溶け消えていく。

何でもないような朝が、何者でもない自分を映し出している。

何でもないような朝に、何者でもない自分を問い直す。

何でもないような朝を、何者でもない自分の礎と成せたなら。

あれは違う、これも違った。

これから何をしたいのか、どうするのか――寝惚け眼の街が、自らのあり方、そのすべてを委ねてくれる。

夜明けの温度、早朝の魔法――朝日を出迎えた朝には、確かに感じるのだ。これから始まる今日を取り戻すための魔法をかけてくれるような、そんな厳しくも優しい温度を。